再発しないうつ病の克服法-心理カウンセラーの「癒しと希望」臨床ケース

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職場でのハラスメントからうつに

Aさんは、仕事で忙しい父親と、感情的になりがちな母親の一人っ子として育ちました。「いい子」であることを求められ、中学ではお勉強はできたものの、一部の女子たちから、二年間にわたって嫌がらせやいじめを受けたことで、人間不信に陥ってしまいました。それでも、イジメを母親にも先生にも周囲にも相談することは一切なかったそうです。

早く独立したいと、安定した公務員になると決め、就職。ずっと頑張ってきましたが、職場でも上司や先輩から、一年以上ハラスメントを受けたことでうつになり、休職されました。初めてお会いした時は、死ねるものなら死にたいと希死念慮も出ており、訳の分からない涙が流れて、何も手につかない状態でした。それでもいつも頑張って生きてきたので、何もできないで休んでいる自分も許せず罪悪感でいっぱいでした。

疲弊しきったAさんでしたが、そんなAさんに最も必要なことは、「ゆっくり心も体も休めることを、Aさんご自身が『許すこと』」でした。

今の憂うつな気持ちも、集中力がないことも、死にたいほど生きる意味が感じられないことも、体が疲れて動かないことも、何もできないでいることの罪悪感も、全てが「うつ病」の症状であるからです。風邪をひいて、症状として熱が出たり、咳が出たり、鼻水が出るように、それをいけないことだと自分を責めても、風邪がよくなることはなくて、まずは適切なお薬を飲んで、ゆっくり休みますよね。それと全く同じです。

今出ている心と体の状態は、「うつ病」の症状なのですから、それがいけないのではなく、その症状に対して、つらすぎれば服薬しながらでも、ゆっくり休むことが大切なのです。

でも、このようにお話をしても、うつの方の多くは、まじめで完全主義的な方が多いので、ゆっくり休むということ自体ができない場合が多いです。

Aさんの場合も、色々な症状が出ていることや今の自分に対する罪悪感に対して、TFTという、つらい感情や症状を軽減させることに効果的なタッピングをさせていただきました。

その上で、「今は休んでいいんだ」「今は憂うつになってもいいんだ」「今は不安になってもいいんだ」と心に言い聞かせながら、まずは体を十分に休めることを優先していただくようにサポートしていきました。

過去の辛い記憶を癒すことの大切さ

最初の頃の涙が出て止まらなくなったり、希死念慮が出るようなことがなくなり、Aさんも少しずつ落ち着いていかれました。うつの急性期を過ぎてから取り組むことは、うつになった原因と思われる出来事や過去の傷つき、考え方を十分に癒していくことです。

Aさんの場合の問題は、大きくは3つでした。

一つは、職場での上司の無理解と一人の先輩からの執拗な嫌がらせによって、仕事を覚えられず孤立してしまったこと。過去のいじめ体験以来、生きていたくないという思いが根底にあったので、「死にたい」という希死念慮と心身の疲労感が強く出ておられました。この職場でのつらさを取り上げてタッピングで心を癒していきながら、その時々の一番つらい症状の軽減も図ることで、ほどなく希死念慮や落涙、強い疲弊感などは緩んでいきました。

次のセッションに来るまでの間、家での精神的な辛さやストレスがどうしてもありますので、セルフケアとしてのタッピングも身につけていただきました。

セッションをして楽になっても、家にいる間にまた心が落ち込んでしまいますから、家でも自分で最低限のセルフケアができることはとても大事なのです。

わずか3分、自分でできるセルフケアをしてくださっている方は、セッションでは根本原因を取りがあげることができるので、セルフケアと根本原因の解消という両輪で進めていけると、非常に効果的であるからです。

二つ目は、中学時代のいじめによる人間不信。人は信じられないし、イジメた人への憎しみや許せなさも非常に強く持っていました。

特にAさんの場合は、先生やそれまで友人だと思っていた人たちからも見て見ぬふりをされたことで、セッションに来るまで誰にもいじめられていたことを話したことはなく、一人で抱え込んだまま、大人になっていったことも大きかったかと思います。

セッションを進めていくと、自分でもここまでその人たちを恨んでいたんだとびっくりされたようです。それでも、憎しみや復讐したいような恨む気持ちを初めて言葉にして表現し、かつ解放をしたことで、今度は、自分がそのことでどれほど傷ついていたかにも気づいていかれました。人間不信と厭世観には陥っていても、自分の心を見つめてしまったら、壊れてしまうという自己防衛が働いていたため、イジメの体験が自分にどんな気持ちや思いをもたらしたかについては、本当には見つめたことがなかったからです。

悲しみや孤独感、恐れや不安感、失望感や絶望感など、自分がどれほど傷ついていたかについても、自分で感じることができるようになり、これを解消し、癒していきました。

ご自分の心がどれほど傷ついていたかを理解して、そんな自分を受け止められるようになってから、少しずつ、Aさんは心を開いていかれました。自分で自分の感情や思いに気づいていくことは本当に大切で、どんなにそれがネガティブなものであったとしても、自分で自分の心が理解できるようになると、自分を受け止めること、つまり「自己受容」ができるようになるのです。そして、他の人を恨んでいても自分が幸せになれないこともわかり、そんな自分から卒業したいと考えるようになりました。

三つめは、感情的に怒る母親の言動での心の傷つきと「私は愛される価値がない」という思いの強さがありました。

本当は、この問題が根底にあるもっとも大きな原因となっているのはわかっていましたが、うつの症状が強く出ている時に、子ども時代の原因部分をダイレクトに扱うのは、適切ではありません。心の動揺がさらに激しくなってしまうので、他の問題がある程度解消されて、ご本人も望まれている場合に取り上げるようにしています。人生にとっては、この問題を避けて通れないので、いつかは向き合う必要があると思いますが、復職を早めにする必要がある場合や、ご本人の心の準備がまだできていない時に扱うのは、望ましい結果が得られないことになってしまいます。

Aさんは、公務員として長く働いてきて、ある程度お休みももらえることが分かっていたので、この機会にと望まれ、一緒に取り組んでいきました。感情的に否定したり、気に入らないと長いこと口をきいてくれなかったり、この洋服を着たくないと話すと、その場で切り刻んでしまうような激しさを持つお母さんとのエピソードを上げてもらいながら、そうした過去が現在の自分に影響を与えない、「ただの過去」として捉えられるように、まずはTFTタッピングでセッションを進めていきました。

こうすることで、過去の辛い出来事としっかり向き合っても、怖さや辛さで圧倒されるようなことはなくなり、自分の傷つきを細やかに見ていっても「侵襲性」なく、大切な癒しのプロセスとして経験を深めていくことができます。

Aさんの場合は、ここで初めて「私は愛される価値がない」と「人は信用できない」というビリーフ(否定的な価値観や信念)を扱っていきました。

「私は愛される価値がない」という思いを心に刻んだ場面、「人は信用できない」と心に刻んだ場面を取り上げ、いわゆるインナーチャイルドワークを行っていきました。

その上で、さらにビリーフチェンジという手法を行うと、「私は愛される価値がある」「私は私の人生を大切にする」「私は人に頼っていいんだ」「人を信頼していいんだ」というような、その人がより良く生きられるような新たなビリーフを身につけていくことができます。

Aさんの場合は、「私は私を大事にする」「私は人に助けを求めてもいいんだ」という新たなビリーフが生まれました。これをご自分のものにしていくためには繰り返しが必要なので、何か、ネガティブな思い癖が出てきた時には、「いや、違う、私は私をもっと大事にする」「いや、私は助けを求めてもいいんだ」とアファメーションとして、使っていただくようにしていきました。

復職は、再発防止の視点が大切

こうして、Aさんの場合は、半年ほどすると、復職する意欲のようなものが出てきはじめました。ここからが、改めて復職のための準備に入っていきます。

ここで元気になったからとすぐに戻ったりすると、また同じような困難やストレスが起きたときに、対応できない場合が起きがちです。大きくは2つの点から復職の準備を始めます。

1つは体力面、生活面での見直し。半年も休んでいると、その間にお散歩をしたり、軽い運動をしていたとしても、週5日の通勤と7時間労働に耐えられるかというと、非常に厳しいものです。特に復職後は、心理的な面よりも、体力的な疲れが大きいですから、今まで以上に、睡眠時間や起きる時間や寝る時間などを復職後に対応できるように見直していくことが大切になります。今はリワークもあるので、心配な方はリワークに3か月くらい通われてから復帰されるのもお勧めです。

2つ目は、再発防止のために、改めて自分が休職に至った原因を明確にし、どうすれば同じような状態にならずに済むかを考えること。心理的な面も、環境的な面も、人間関係でのコミュニケーションでも、改善できる点、対処できる点を明らかにし、工夫修正を図っていきます。

また、復職すると考えて、出てくる不安や抵抗感をはっきりさせて、感情的問題や認知的問題であれば、タッピングで解放したのち、どのように考え対処するのがいいかを明確にしていきます。また、環境的問題や上司などのハラスメントの問題がある場合は、主治医に相談して、異動の提案を診断書にもりこんでいただいたり、会社の産業医や人事にお話をしてみることなどの対処を図っていくこともとても大事です。

Aさんは、再発をするようなことは避けたいと、その後二か月ほどかけて、改めて職場での自分と周囲との人間関係の見直しを図り、生活面体力面も、職場からの指導にも従いながら進めていかれました。

結局、8か月をかけて復職。

Aさんは、復職後のケアの大切さも理解されておられたので、復職をされてからも、半年間は一か月に一度、その後の半年は2か月に一度通われ、それ以降は、少しストレスが溜まっていると感じられるときに不定期に予約をされてこられました。

頑張り屋さんであったため、頑張りすぎることや無理をしてしまいがちで、自分が生活や趣味を心から楽しむということがないAさんでしたが、ヨガや朗読に興味を持たれて、新しい世界や友人との関りも生まれていきました。

そして、2年が経った頃、もう再発の心配もなくなり、かつてよりもはるかに自分らしく、仕事もプライべートも充実して過ごせるようになったAさんは、いつでも来られる場所として使っていただけることを約束して、卒業していかれました。

 

 

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